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言語聖書に対する洞察,第1巻
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言語の多様性を説明するどんな事柄がありますか
国連教育科学文化機関(ユネスコ)によれば,現在,世界中で6,000ほどの言語が話されています。中には何億もの人々によって話されている言語もあれば,1,000人足らずの人々しか話さない言語もあります。表現されたり伝達されたりする概念は,基本的には同じかもしれませんが,それを表現する方法はたくさんあります。人間の意思伝達方法のこの不思議な多様性の起源を説明しているのは,聖書の歴史だけです。
地球的な規模の大洪水後のある時点まで,全人類は「一つの言語[字義,「唇」],一式の言葉」しか用いていませんでした。(創 11:1)聖書は,後にヘブライ語と呼ばれた言語がその元の「一つの言語」であったことを示唆しています。(「ヘブライ語」を参照。)あとで述べますが,それは他のすべての言語がヘブライ語に由来する,または関連があるという意味ではなく,ヘブライ語が他のすべての言語よりも先にあったことを意味しています。
創世記の記述は,大洪水後の人類の一部の人々がノアとその子らに述べられた神のご意志に反する一つの計画のもとに結束したことを説明しています。(創 9:1)彼らは広がって行って『地に満ちる』代わりに,人間社会の中央集権化を図り,メソポタミアのシナルの平野として知られるようになった場所に住居を集中させようと決心しました。そこはまた,一つの宗教的な塔のある宗教的中心地になるはずであったようです。―創 11:2-4。
全能の神は彼らの一致した行動を中止させて,そのせん越な計画を阻止されましたが,それは彼らの共通の言語を混乱させることによって成し遂げられました。そのために,人々は自分たちの計画を調整して進めることが一切できなくなり,その結果,彼らは地球上のあらゆる場所に散らされました。また,彼らの言語が混乱させられたため,それ以降,間違った方向,つまり神を侮る方向へ前進することは阻まれ,もしくはその速度は鈍らされることになりました。というのは,人間の知的,肉体的力を結集して野心的な企てを仕遂げる能力が制限され,さらに形成された種々の異言語群の蓄積された知識 ― 神から与えられたものではなく,人間の経験と研究により得られた知識 ― を利用することも困難になったからです。(伝 7:29; 申 32:5と比較。)それで,人間の話し言葉が混乱させられたため,人間社会に分裂をもたらす主要な要素が持ち込まれたとはいえ,危険で有害な目標の達成を妨げる点で,実際のところ人間社会は益を受けたことになります。(創 11:5-9。イザ 8:9,10と比較。)人間が世俗的な知識を蓄積して誤用した結果,この現代に起きてきた幾つかの事柄を考慮しさえすれば,バベルでの努力が妨げられずに放置されていたなら何が起きたかを神は遠い昔に先見しておられたことが分かります。
言語学,つまり種々の言語を比較研究する学問では,言語は大抵,別個の“語族”に分類されています。各々の主要な語族の祖語は普通,特定されていません。まして,今日,話されている何千もの言語すべての源として何らかの単一の祖語を指し示す証拠は一つもありません。聖書の記録は,すべての言語がヘブライ語から出た,または枝分かれしたとは述べていません。一般に民族一覧表と呼ばれるもの(創 10章)の中では,ノアの子ら(セム,ハム,およびヤペテ)の子孫が列挙され,それぞれ「その種族にしたがい,国語にしたがい,その土地により,国民ごとに」分類されています。(創 10:5,20,31,32)ですから,エホバ神は人間の言語を奇跡的に混乱させた時,ヘブライ語の幾つかの方言ではなく,それぞれ人間の感情や考えを十分に表現できる,幾つかの全く新しい言語を導入されたように思われます。
したがって,神がバベルにいた建築者たちの言語を混乱させた後,彼らには「一式の言葉」(創 11:1),つまり単一で共通の語彙がなくなっただけでなく,共通の文法,つまり個々の単語の関係を表現する共通の方法もなくなりました。S・R・ドライバー教授はこう述べました。「しかし,諸言語は文法やルーツだけでなく……概念を一つの文にまとめる仕方も異なっている。考え方は人種によって異なっており,したがって文型も言語によって異なっている」。(聖書辞典,J・ヘースティング編,1905年,第4巻,791ページ)ですから,言語が異なれば,かなり異なった思考の型が必要になり,初心者が自分の学んでいる“言語で考える”のは困難な事柄となります。(コリ一 14:10,11と比較。)自分のよく知らない言語で言われた,あるいは書かれたものを直訳した文章は筋が通っていないように思え,しばしば人に,「しかし,これは意味をなさない!」と言わせるようになるのもそのためです。それで,エホバ神がバベルにいた人々の話し言葉を混乱させた時,まず最初に人々のそれまでの共通語の記憶をすべてぬぐい去り,次いで新しい語彙だけでなく,改められた思考の型をも人々の脳裏に導入して,新しい文法を作り出されたようです。―イザ 33:19; エゼ 3:4-6と比較。
例えば,幾つかの言語は中国語のように,単音節言語(ただ一音節の単語でできている言語)です。それとは対照的に,他の幾つかの言語の語彙は膠着させる,すなわち単語を並べてつなぎ合わせることにより形成されます。ドイツ語のHausfriedensbruchはその例で,この言葉は文字通りには「家の平和の破壊」という意味で,もっと分かりやすく言えば,「住居侵入罪」を意味しています。言語によっては,統語法,つまり文の中の言葉の配列が非常に重要ですが,それがほとんど問題にならない言語もあります。それにまた,活用(動詞の活用形)の多い言語もあれば,中国語のように,活用のない言語もあります。相違点は無数に挙げることができますが,いずれの場合も,しばしば多大の努力を払って思考様式を調整する必要があります。
バベルでの神の処置によって生じた元の種々の言語はやがて,関連のある種々の方言を生み出し,それらの方言はしばしば別個の言語として発達し,姉妹方言,あるいは祖語とのそれぞれの関係は時にはほとんど見分けられなくなっているようです。バベルにいた群衆の中で目立った存在ではなかったと思われるセムの子孫でさえ,ヘブライ語のみならず,アラム語,アッカド語,アラビア語などをも話すようになりました。歴史的には,次のような様々な要因が言語の変化を助長しました。つまり,距離もしくは地理的障壁に起因する分離,戦争や征服,通信連絡の途絶,他の言語を話す人々の移住などです。そのような要因のために,古代の主要な言語は分かれたり,ある国語が他の国語と部分的に融合したり,ある言語は完全に消滅したり,侵入してきた征服者の言語によって置き換えられたりしました。
言語を研究すれば,前述の情報と調和した証拠が得られます。新ブリタニカ百科事典はこう述べています。「書き記された言語に関する最初期の記録,つまり入手が期待できる言語学上の化石はせいぜい4,000ないし5,000年ほどしかさかのぼれない」。(1985年,第22巻,567ページ)「科学図解」誌の1948年7月号(63ページ)の一記事はこう述べました。「今日,知られている諸言語のより古い形態のものは,それらから派生した現代の言語よりもはるかに難しいものであった。……人間は最初,単純な話し言葉を使いだし,やがてそれを一層複雑なものにしたのではなく,むしろ記録に載っていない過去のある時に,途方もなく難しい話し言葉を把握し,やがてそれを単純化して現代の形にしたものと思われる」。言語学者メーソン博士も,「“未開人”はブーブーという一連の音声を出して話し,多くの“洗練された”概念を表現することはできないという観念は大変誤っており」,「文字を持たない民族の言語の多くは現代のヨーロッパの言語よりもはるかに複雑なものである」と指摘しています。(サイエンス・ニューズ・レター誌,1955年9月3日号,148ページ)したがって,証拠は,話し言葉もしくは古代語の起源に関するどんな進化論的見方にとっても不利です。
古代の諸言語が広まり始めた元の中心となる場所に関して,オリエント言語学者ヘンリー・ローリンソン卿は次のような所見を述べました。「こうして,聖書の記録から全く離れ,言語地図,交差の跡だけを頼りにする場合でも,言語分散の中心点として,シナルの平野に到達するはずである」―「英国・アイルランド・王立アジア協会ジャーナル」誌,ロンドン,1855年,第15巻,232ページ。
現代の言語学者が列挙している主要な語族としては,インド・ヨーロッパ(印欧)語族,シナ・チベット語族,アフリカ・アジア語族,日本語と朝鮮語,ドラヴィダ語族,マレー・ポリネシア語族,ブラックアフリカ語族などがあります。今なお,どうしても分類できない国語も少なくありません。主要な語族の各々には多くの派,もしくは下位語族があります。ですから,インド・ヨーロッパ語族にはゲルマン語派,ロマンス語派(イタリック語派),バルト・スラブ語派,インド・イラン語派,ギリシャ語,ケルト語派,アルバニア語,アルメニア語などが含まれます。さらに,これら下位語族の大半は幾つかの言語で成り立っています。例えば,ロマンス語派にはフランス語,スペイン語,ポルトガル語,イタリア語,ルーマニア語などが包含されています。
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名聖書に対する洞察,第2巻
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特定の名の由来,その構成要素である語根,および意味に関しては,学者の意見も様々です。そのため,聖書中の名の意味についての説明は参考書によって異なります。この出版物の中では,名の意味を確認する上で聖書そのものがおもな典拠となっています。バベルという名前の意味などはその一例です。創世記 11章9節でモーセはこう書きました。「それゆえにそこの名はバベルと呼ばれた。そこにおいてエホバは全地の言語を混乱させたからであ(る)」。ここでモーセは,「バベル」を語根動詞バーラル(混乱させる)と関連づけて,「バベル」が「混乱」という意味であることを示唆しています。
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国民,諸国民聖書に対する洞察,第1巻
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起源 別々の国民が形成されたことに関する最初の情報は,大洪水以後の時代に,バベルの塔の建設に関連して出て来ます。この計画に参加した人々は,一致団結して神の目的に反対しました。一致した行動を促進していたおもな要素は,『全地が一つの言語,一式の言葉のままであった』ことです。(創 11:1-4)エホバはそのことに目を留め,彼らの言語を混乱させることによって,『彼らをそこから地の全面に散らされ』ました。―創 11:5-9; 第1巻,329ページの地図。
各言語集団は,今や意思伝達の障壁によって分離されたため,それぞれ独自の文化,芸術,習慣,特性,および宗教 ― それぞれ独自の物事の行ない方 ― を発達させました。(レビ 18:3)神から疎外されたそれら多様な民族は,自分たちの神話上の神々の偶像を数多く考案しました。―申 12:30; 王二 17:29,33。
それら諸国民には三つの大きな支流があり,それぞれはノアの息子ヤペテ,ハム,およびセムの子や孫から成っています。その3人は各々その名によって呼ばれる国民の始祖と認められていました。したがって,創世記 10章に載せられている名簿は,諸国民を一覧表にした最古のものと言えるかもしれません。それらの国民は全部で70を数えました。そのうちの14はヤペテに,30はハムに,26はセムに源を発していました。(創 10:1-8,13-32; 代一 1:4-25)これらの国民集団に関するほかの情報については,第1巻,329ページの図表,ならびにノアの70人の子孫の各々に関する項目の記事を参照してください。
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