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ラケル聖書に対する洞察,第2巻
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ヤコブはそのときハランから去ろうとしていましたが,しゅうとはもっと長くとどまるよう彼を説き伏せました。神の導きでヤコブが出て行ったのは6年後のことでした。ラバンが裏表のあるやり方をする人だったので,ヤコブは自分が出発することをラバンに知らせず,レアとラケルもその点で夫に従いました。ラケルは去る前に父親の「テラフィム」を盗みました。それは一種の偶像だったと思われます。あとからラバンが一行に追い付き,物が盗まれたこと(ラバンのおもな関心事だったと思われる)を知らせると,ヤコブはラケルに罪があることを知らなかったので,そのような行為そのものに対する非難の気持ちを表わし,従者の中に犯罪者が見つかったなら,その者を死刑にすると言いました。ラバンの捜査はラケルの天幕にまで及びましたが,ラケルは生理中で気分が悪いと言って,テラフィムの入っている鞍かごの上に座ったまま動こうとしなかったので,見つけられずにすみました。―創 30:25-30; 31:4-35,38。
兄のエサウと会う際,ヤコブはラケルとその独り子を一番後ろに置いて進み,引き続きラケルのほうを愛していることを示しました。エサウから攻撃された場合にそこが最も安全だと考えてのことに違いありません。(創 33:1-3,7)しばらくスコトに住み,それからシェケム,最後にベテルと移り住んだ後,ヤコブはさらに南に向かいました。ベテルとベツレヘムの間のどこかで,ラケルは2番目の子供であるベニヤミンを産みましたが,出産中に死んでそこに葬られました。ヤコブは墓標として柱を立てました。―創 33:17,18; 35:1,16-20。
詳細な記録が少ないので,ラケルの人となりの全体像を描くことは不可能です。ラケルはエホバの崇拝者でした。(創 30:22-24)しかし,人間の弱点を示しました。テラフィムを盗んだこと,発見を免れる際に示したずる賢さは少なくとも一部は家庭環境のせいにすることができるでしょう。どのような弱点があったにせよ,ラケルはヤコブに深く愛されました。ヤコブは老齢になってもなお,ラケルが自分の正妻であったとし,彼女の子供を他のどの子供よりも大切にしました。(創 44:20,27-29)ヤコブが死ぬ直前にヨセフに語った言葉は,簡潔ながら,ラケルに対するヤコブの愛情の深さを伝えています。(創 48:1-7)ラケルとレアは『イスラエル[ヤコブ]の家を築いた』と言われています。―ルツ 4:11。
考古学上の発見は,ラケルが父親の「テラフィム」を盗んだ真相の解明に役立つかもしれません。(創 31:19)西暦前2千年紀半ばのものとされている,北メソポタミアのヌジで発見された楔形文字の書字板は,古代のある民族の間では,家族の神を持つことが一家の財産を相続する法的権利の象徴とみなされていたことを示しています。(「古代近東テキスト」,J・プリッチャード編,1974年,219,220ページ)ある人たちの意見によれば,ヤコブには養子としてラバンの財産を相続する権利があるとラケルは思ったのかもしれません。そして,確実に相続できるように,さらにはラバンの息子たちよりも有利になるようにテラフィムを奪ったことも考えられます。あるいは,テラフィムを持っていれば,ヤコブが仕えていた間に得た富の一部を父親が合法的に要求しようとしてもそれを阻止できると考えたのかもしれません。(創 30:43; 31:1,2,14-16と比較。)むろんそれは,ラバンの民の間にそうした習慣があり,テラフィムが実際に家族の神であったならばのことです。
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テラフィム聖書に対する洞察,第2巻
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考古学者たちがメソポタミアやその隣接地域で発見したものからすると,テラフィムの像を持つことは,だれが家族の相続物を得るかということと関係があったようです。ヌジで発見された1枚の書字板によると,状況によっては,家族の神を所有している婿が法廷に出て,死亡したしゅうとの財産に対する権利を主張できるケースがありました。(「古代近東テキスト」,J・プリッチャード編,1974年,219,220ページ,および脚注 51)このことを知っていたラケルは,父親が夫のヤコブを欺くようなことをしたのだから自分がテラフィムを取るのは正当なことだと判断したのかもしれません。(創 31:14-16と比較。)また,相続権に関連したテラフィムの重要性を考えれば,ラバンが自分の兄弟たちを連れ,ヤコブを追って7日の道のりを行くほど必死になってテラフィムを取り戻そうとした理由も説明がつきます。(創 31:19-30)もちろん,ヤコブはラケルがしたことを全く知りませんでした。(創 31:32)また,ヤコブがテラフィムを使ってラバンの息子たちから相続物を取ろうとしたという証拠は何もありません。ヤコブは偶像とは何のかかわりも持ちませんでした。そのテラフィムは遅くとも,ヤコブが家の者たちから渡された異国の神々すべてをシェケムの近くにあった大木の下に隠した時に処分されたと思われます。―創 35:1-4。
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